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芋判か判子のおばけのようにしか見えない「なにか」をしっかり握り締めて、きりりとポーズを取っている意志の強そうなこの紳士は、誰あろう他ならぬグーテンベルクだそうです。でもなぜ、グーテンベルクが芋判なんか? それともひょっとしてこの肖像画の作者は、これは活字であると、グーテンベルクが自分で発明したものを誇らしげに持っているのだとでも言いたかったのでしょうか? よく見ると表面にABCDEFG…と大文字が意味なくいくつも並んでいたりします。
いったいあなたは誰?(もしかしてサンタ?)とたずねたくなりますが、やっぱりモデルはグーテンベルクらしいのです。ただしこの肖像画の原画は、1584年に作成された作者不明の銅版画です。本人の死後1世紀以上もたってから描かれた顔が、グーテンベルクの肖像として世界中を瀾歩しているわけです。まるで日本の聖徳太子のよう。写真もない時代の、王族でも英雄でもない人物(言ってみれば没落貴族あがりの一職人)ですから、しかたのないことではありますが。 結局、グーテンベルクの顔やスタイルに関しては他に何の記述も残されていないため、現代の私たちには本当の姿を知りようがありません。この“不思議な帽子を被り芋判を彫りながら威厳をたたえる鬚の長い老紳士”を自分であると語り継がれて、はたして天国のグーテンベルクは嘆いているのか、はたまたほくそえんでいるのか、まさに神のみぞ知る、なのです(たぶん前者……)。 執筆:杉山朋子、村松佳子、蛭田龍郎
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